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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1447号 判決 1976年3月31日

控訴人

豊信用組合

右代表者

宮村耕馬

右訴訟代理人

鈴木七郎

被控訴人

東京都

右代表者知事

美濃部亮吉

右指定代理人

木下健治

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件の事実関係について

1、原判決の次の記載をここに引用する。

(イ)  原判決の七枚目(記録一八丁)裏七行から九枚目裏一〇行まで。

(ロ)同一〇枚目裏八行から一一枚目裏八行の「この認定を覆すに足りる証拠はない。」まで。

2、当審において提出援用された証拠によるも右認定を左右しえない。

3、<証拠>によると、被控訴人は本件債権の弁済供託をするについて、供託物の還付を請求し得べき者を「佐藤正衛又は東洋実業代表李村柱甲」として供託をした事実が認められる。

二控訴人は、被控訴人に対して委任状と題する書面(乙一号証)の提出によつて本件債権の佐藤正衛より控訴人への債権譲渡の通知がなされたと云うが右書面の記載が控訴人主張の債権譲渡の通知と解することのできないことは、右引用の原判決の理由の説示のとおりである。のみならず、それが債権譲渡の通知と解しうると仮定しても、控訴人の主張によれば、この債権譲渡は昭和四六年八月三日になされ、その被控訴人に対する通知は同年同月五日になされたというのに、控訴人が右通知の確定日付の記載と主張する東京都北部区画整理事務所の受理印の日付は同年七月二一日となつていることは、これも控訴人の主張するところである。そうすると、右の確定日付は、債権譲渡自体およびその理由より以前の日付でされたことになり、これは債権譲渡の第三者に対する対抗要件として確定日付ある証書を要求する法の趣旨に反するものというべきで、右通知は本件債権譲渡の対抗要件としての効力を生じないものといわざるを得ない。

また右債権譲渡の通知が右の受理印の日付のとおり同年七月二一日になされたとすれば、右通知は債権譲渡自体より前になされたことになり、これに確定日付が付されたとしても、やはり同様の趣旨により債権譲渡の対抗要件としての効力を生じない。そして、以上は右受理印が控訴人主張の本件債権譲渡に関する被控訴人の承諾の表示と解しうるとしても、同様であつて、この承諾は本件債権譲渡の第三者に対する対抗要件としての効力を生じないのである。

しかるに同年八月二一日被控訴人に対して佐藤正衛から本件債権を東洋実業代表者李村柱甲に譲渡した旨の通知が内容証明郵便によつてなされ、被控訴人が本件債権につき弁済供託をしたことは前認定のとおりであり、右供託金が結局右訴外人に還付されたことは当事者間に争いがない。

以上認定の事実関係と供託法所定の還付の手続を考慮すると、右の佐藤より李村に対する本件債権の譲渡は一応真実になされたと推定せざるを得ないのであるが、この債権譲渡が不存在であるとか、無効の事由があるとかの事情の存在については、控訴人において主張立証をしないのである。以上のとおりであるとすれば、本件債権は二重に譲渡され、控訴人への譲渡については第三者に対する対抗要件の具備がなく(控訴人は前記乙第一号証の書面以外の方法による対抗要件の具備を主張しない)、東洋実業代表の李村に対する譲渡については対抗要件の具備が肯定されることになるから、控訴人はもはや債務者たる被控訴人に対してその権利を主張することができない筋合である。したがつて、仮りに被控訴人が前記供託に際して控訴人を債権者の一員として加えておいたとしても、控訴人は訴外李村柱甲に優先してその還付を受ける権利を有しないのである。控訴人が本件債権の弁済を受け得なかつたのは債権譲渡につき適法な対抗要件の具備を怠つたことの当然の帰結といわなければならない。

控訴人は更に、控訴人は佐藤安子に対する貸付金債権の担保のため佐藤正衛から本件債権につき同人を代理して弁済の受領をする権限を与えられ、被控訴人も右事情を知つてこれを承認していたと主張するが、仮りに事実がそのとおりであるとしても本件債権が李村に譲渡され、その対抗要件が具備された以上、佐藤は債権者の地位を失い、その代理受領権も消滅したといわなければならず、被控訴人としては本件債権の対抗要件を具備した譲受人たる李村柱甲に対して弁済をせざるを得ない筋合である。

以上のとおりであるから、爾余の争点について事実上の判断をするまでもなく、控訴人の被控訴人に対する本件債権の請求は理由がなく、また控訴人主張の不法行為も成立しない。

三よつて、本訴請求を排斥すべきものとした原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九五条八九条にしたがい、主文のとおり判決する。

(松永信和 小林哲郎 間中彦次)

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